スポンサーサイト

  • 2019.05.15 Wednesday

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • 0
    • -
    • -
    • -
    • -

    -カリン-

    • 2010.12.09 Thursday
    • 17:54



    庭の榠樝が実をつけた。
    いつの間に花を咲かせたか知らないが、気付くと庭の石畳の上にころりとひとつ大きな黄色い実が落ちていた。
    頭上を見ると、枝に鈴なりに榠樝の実が生って、枝を重たそうにたわませている。
    足元のそれを拾い上げて、鼻元に近寄せる。
    ほんのりと甘ったるい香りがする。

    「良い榠樝ですね」

    生垣の向こうから、不意に声を掛けられた。
    越してきたころには胸あたりまでの高さだった生垣は、私の無精の賜物により背の丈よりも少し低いほどの高さまで成長を遂げていたので、声の主はとんと見えない。
    加えて生垣の向こうはあまり人通りが多いとはいえない細道であるから、そんなところより到底声がかかるとは思ってもみなかった私の蚤の心臓は跳ねんばかりである。

    「ええ。いつの間にか随分と沢山生ったものです」

    私が出来るたけ平静を装って、そう云うと生垣の向こうからまた、声が返ってくる。

    「どうなさるんですか」

    ほほう、この実が狙いで声をかけたのだったかとここで私は漸く合点がいく。

    「そうですね。一壜くらいは酒にでも漬けましょうが。どうです、少しお持ちになりませんか」

    「それは、ありがたい、よろしいんですか」

    「ええ、かまいません。今いくつか包みましょう」

    こんなに生っていても独り者の私では、精々庭掃除が忙しくなるだけだ。
    ならば持っていかせてしまえと、また私のものぐさが顔を出す。

    私は箪笥から風呂敷をひとつ出してきて、着物の裾を少し持ち上げてひょいと幹に足をかけもぎ取った実を五つ六つ包んだ。
    お隣の奥さんにもおすそ分けするからと、ついでにその分ももいで縁側に置いておいた。

    「いまそちらに回りましょう」

    と、私が表へ回ろうとすると「それには及びません。ここの生垣の上からこちらに渡してくだされば」と云う。
    はて、と思ったものの、私もあまり人前に出られた格好をしていたわけではないから、そうさせてもらうことにした。
    私は少し背伸びをして、重たくなった風呂敷を手に下げ差し出す。

    「もうちっと低く」

    「どうですか」

    「もうちっと」

    「これよりはいけません。やはり表に回りましょう」

    私がもう一度表に回ろうとすると、また「いえいえそれには及びません」と声がする。

    「では、この生垣の下から、ぐいと押し出しては貰えませんか」と云う。

    おかしなひともいたものだと思ったが、こちらも体よく押し付けているようなものなのでそれに従って、生垣の下から風呂敷を押し出した。
    すると、一瞬で榠樝は生垣の向こうへ引っ込んでいった。

    「風呂敷はいずれお返しいたします」

    と声がした。
    古いものなので持っていってもらってかまわないと告げたが返事がない。
    へんに思い生垣の下から向こうを覗いてみると、べろりと鼻面をなめられた。
    犬だった。

    「あらやだ、なにをなさっておいで」

    隣の奥さんの声が追って聞こえる。どうやら散歩の帰りらしかった。

    「そこにどなたか見えませんか」

    「いいえ、ずっとこの一本道を来ましたがどなたともすれ違いませんでしたし、向こうにもだれも見えませんわ」

    急いで生垣の向こうへ回ってみると、確かに何かを引きずったような後はあるものの、誰の姿も見えなかった。
    こいつはどういうことかしらん、と奥さんに斯く斯く云々話すと奥さんは道の向こうに見える山のほうを見ながら

    「狐かもしれませんねえ」と云った。

    狐も榠樝をつけるのだろうか、とは思ったが、そういうこともあるかと、無理矢理納得した。
    私の分も酒に漬けてくれるというので、一度庭に戻り、またいくつかもいでから隣へ持っていった。
    今年は美味い榠樝酒が飲めそうだ。



    にほんブログ村 写真ブログへ
     にほんブログ村 写真ブログ 心象風景写真へ
     ブログランキング・にほんブログ村へ

    スポンサーサイト

    • 2019.05.15 Wednesday
    • 17:54
    • 0
      • -
      • -
      • -
      • -
      コメント
      コメントする








          
      この記事のトラックバックURL
      トラックバック

      PR

      calendar

      S M T W T F S
       123456
      78910111213
      14151617181920
      21222324252627
      28293031   
      << July 2019 >>

      ランキングリンク

      にほんブログ村 その他日記ブログへ にほんブログ村 写真ブログへ にほんブログ村 イラストブログへ

      天体

      selected entries

      categories

      archives

      recent comment

      links

      profile

      search this site.

      others

      mobile

      qrcode

      powered

      無料ブログ作成サービス JUGEM