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    アリステアと貴緒とシルエット

    • 2010.03.07 Sunday
    • 21:51




    「ああ、すっかりシルエットだねえ。」

    アリステアは云った。
    ぼくは何のことか尋ねようと思ったけれど、
    そう云った彼の横顔の影がつんと澄ましていて
    なんだかとても張り詰めているように思えてならなかったので、止すことにした。
    ぼくは彼にならんで、庭を眺める。
    さっきまでぼくらが遊び歩いた橋が、
    あの鯉たちの泳ぐ池にはっきりと映っていた。

    急に勢いを増して照りつけた陽から
    逃れるように屋内へと足を踏み入れた。
    それは簡素な東洋風の建築であったのだが
    いつの昔から建っているのかしらぬその家屋は
    滑らかで
    涼やかで
    うつくしかった。
    ぼくらを匿うその建物の中は、外の光とは対極に冷たいほどの空気で満ちていた。

    「なんだか、ここは眠りたくなる場所だね。」

    ぼくは欠伸を隠す。

    「眠るのならば置いていくけど。」

    アリステアはそう云いながら、自分でもひとつ大きな欠伸をした。

    「眠るのはきみじゃないか。」

    「そうかな。二人ともかもしれないね。」

    そうなったらどうだろう。
    ぼくらはここで昏々と眠り、
    いつの間にか陽が落ち
    外のあの目映い光は消え失せ
    この建物の中のひっそりとした薄暗さと
    屋外の無闇に何もかもを取り込もうとする夜が同化して
    すべてが見えなくなって
    この手触りのよい欄干も
    ぼくたちを守ろうとしていたはずが足をとるばかりになる。
    空気との境目を見失ったあの鯉たちの棲む池は
    やはり陸のものを欲しがるのだろうか。
    何も持っていないぼくたちでも、
    その中へ連れてゆこうとするのだろうか。

    「行こう。貴緒。」

    アリステアの振り向いた顔は
    きっと笑っていたのだろうけれど眩しくてぼくにはわからなかった。

    「行こう。アリステア。」

    どこか、陽の沈まないうちに。

    「安宿があるかしら。」

    ぼくたちは、笑った。











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