アリステアと貴緒と飛び石のある池

  • 2009.12.09 Wednesday
  • 00:06






「貴緒、おちるなよ。」

きみはぼくみたいに運動神経がよくない
とアリステアは嘯く。
ぼくは莫迦云え、と後に続く。
水面の下ではたくさんの鯉たちが、空に向って口を開閉している。そのたびに水はがぼりがぼりと音をたてて飛沫を飛ばす。

「なんだか気味が悪いや。」

ぼくは少し、身を引いた。水面から浮かんでは沈む鯉たちの鱗や睛が鈍く光るのが、なんだか怖いような気がした。

「そうかな、ぼくはべつに平気だぜ。ほら。」

そう云うや、アリスは屈みこむとなんの躊躇もなく人差し指を池へと差し入れた。
無数の鯉はそれに気がつくと、餌と思いこんだのか次から次へとアリステアの指にかぶりつく。

「やめろよ。アリス。」

ぼくは驚いて大きな声を出してながら、一つ飛ばしてアリステアの立っている石の一つ手前まで駆けた。アリスはぼくの声には動じず笑って鯉に指を食べさせている。

「餌と間違えてる。」

「痛くない。」

ぼくが聞く。

「痛くない、こいつら歯がないみたい。」

「鯉はくちには歯はないよ。」

ぼくはアリステアを止めるのをやめた。

「ただ、咽喉に歯があるんだ。貝や何かだって砕いて食べる。」

アリスは少しとまって、ようやく指を引っ込めた。
屈みこんだまま鯉を見ている。鯉は飽きたのかそれが餌ではないと気付いたのか、ばらばらと散り始めた。
アリステアは立ち上がると濡れた指先をコォトの裾でぬぐった。

「鯉はなんだって食べる。」

今度はぼくが屈みこんで池をのぞいた。水面に映るぼくの影に、また鯉たちが集まりだした。
ついさっき、アリステアにもてあそばれたことなんて忘れてしまったらしい鯉の集団は、口を開閉しだす。がぼり、がぼり、がぼり。
ぼくは右手の人差し指を、そ、と水に近づける。

「もう行こう。」

アリステアは小さな声で云った。
ぼくはおかしくなって笑った。

「アリス、あそこで、鯉の餌を売ってるよ。一袋買って、あげてみようか。」

ぼくが云うとアリスも笑って、もうさんざんあげた、やつらが食べなかっただけだよ。
と云い、飛び石を一つとんだ。









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