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    ぼくの魂を君に。

    • 2019.04.03 Wednesday
    • 23:20

    ぼくたちは、知らないだけでほんとうは魂をたくさん持っている。

    みんな、それは一人一つしか持ちえないと思っているけれど、ほんとうはそうじゃない。

    今までだって、ぼくたちは至る所に魂を少しずつ置いて生きて来たんだ。

    母親が君の産声を聞いたとき、その産声は魂になって君のお母さんの心に残っている。

    だから君のお母さんは毎月君に手紙を寄越す、その魂のおおもとに向けて。

    ぼくは今日この宿舎を出る。

    でもぼくの魂はきっとここに残る。

    この宿舎だけじゃない、あの校舎にも、裏庭にも、週末に遊んだ街角にも。

    そこかしこにぼくの魂は残っていくはずだ。

    だからぼくが目に見えない場所へ行って、もう音信も途絶えたって君はなにも悲しまないで欲しい。

    君の中にもぼくは、ぼくの魂を置いていくから。

    そして君は知らないだろうけれど、ぼくの中には君の魂がもうすっかりなじんでいる。

    まるで、ぼくの心に最初からあるみたいに。

    君とぼくは魂の交換をしたんだ。

    それは、どんなに遠く離れても引き離すことのできない距離として確立しているんだ。

    解らないかも知らない、でも、ぼくはそう思うからここを出ていくことができるんだよ。

    ぼくは、行く先々でまたたくさんの魂を置いていく。

    そうして最後の一個を置いた場所にたどり着いた君がいつの日か、白い花を置いてくれることを願ってる。

    ぼくたちは永遠に魂を分け合った、そう謂う存在なんだ。

    そう思って、ぼくはもう泣くのを止し、そして顔だっておぼろげにしか覚えちゃいない父親ってひとについていく。

    この先何があるのか、先生にも解らない。

    ただ、ぼくはまだ子供で、ぼくの居場所を決めるのがぼくじゃなくてその父親らしいって事だけは解っている。

    ぼくは君に魂をひとつあげる。

    君はぼくに魂をひとつ、くれたね。

    さあ、ぼく、もう、行かなくちゃ。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    彼は旅立つ前日の夜ふけ、窓辺に腰を掛けてそんなことを、まるで自分や世界に云い聞かすみたいに喋っていた。

    ぼくにはその時、その意味がいまいちピンとこんかったけれど、今ならばわかる。

    彼は確かにぼくの魂をひとつ持って行った。

    そして、ぼくの心にはあの日、月の明かりにうっすらと照らされた彼の横顔と一緒に彼の魂がある。

    彼と過ごしたすべての場所に、彼の魂を感じる。

    彼の居所ももうさっぱり判らないようになってしまったのに。

    ぼくは彼の魂の居所は、一日だって忘れたことが無い。

    それは、ぼくの心のなかの、とても大切な部分にあるから。

     

     

     

     

     

     

     

    。。。。。。。。。

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