アリステアと貴緒と青い船

  • 2011.01.11 Tuesday
  • 23:49



ぼくたちはそれから随分と歩いて、大きなとおりに出た。
するとおかしな格好をした背の高いビラ配りがひとり
まるで踊るような足取りでやって来て
アリステアの手元に一枚、
濃紺の洋墨で刷られたビラを渡し、
また踊るように去っていった。

「この絵は船かしら」

ぼくは彼の手元を覗き込む。

「ああ、どうもこの先の港に船が来ているらしいぜ」

「もう日の暮れる頃だけれど、観にゆこうか」

「ゆこう。大型の客船なんて、そう観られるものじゃあない」

それがちょうど夕陽の落ちようという時分のこと。
日のすっかり落ちたいま、
ぼくとアリスは
あのビラのイラストよりも数倍は豪華な客船のデッキに立っている。
白い船体は隅々まで眩いほどの青白いライトに照らされていた。
冷たく鋭い海風が、
頬を、耳を、指先を
まるで裂こうとしている様に吹いている。

「船というにはいささか大きすぎる気がするね」

「これで本当に波の上へ浮いて、遠くの国へゆけるのかな」

「さあ。実は船底と海底がすっかりくっついていて、ここから一米も動きやしないのかも」

「莫迦云って」

アリステアはそう云って笑い、ぼくも笑った。
それはまるで解りきった嘘だったけれども
何故だかひどくこの船を滑稽に見せた。

デッキはひどく寒かったが、遠く下に暗い海の音が聞こえ
空を見上げると、一等星がうっすらとかがやいていた。

「この照明の所為で、銀河の流れまでは見えないや」

ぼくは真上を向いて云う。
伸ばした首筋にまた海風が刺さる。

「本当だ。明るいというのも善し悪しだね」

「ああ、善し悪しだ」

ぼくとアリスは空を向いたまま
ほう、とひとつふたつ白い息を吐いた。

白い息は暗い空へ昇り
視界に一筋の銀河を流し、一瞬かがやいたように思うと
それはゆっくりと消えていった。

ぼくらはそれから何も云わずじっと夜空を仰いでいたが、
一瞬の銀河の流れがすっかり消えてしまうと、
なんだか無性にホットショコラが恋しくなりデッキを後にした。
後ろ目に見た船はいまもまだ
まるで夜を知らないように、
煌煌と青白く照らされている。





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