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  • 2019.05.15 Wednesday

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    羽のはえた日

    • 2019.05.15 Wednesday
    • 00:41

    ぼくの背中を擦りながら
    彼女は云った
    「あなた、親知らずは生えた?」
    ぼくは
    はい
    と答える
    「肉や皮膚を突き破って生えてくるの、
    痛かったでしょう。」
    彼女の手のひらが
    ぼくの肩胛骨を
    なぞる
    「それと同じよ。」
    ぼくの肩胛骨のあたりが
    ズキンと痛む
    「見えてきたわ。」
    なんて痛いんだろう
    声にならない悲鳴が
    喉を枯らす
    「がんばって、もう少し。」
    食いしばる歯が
    軋む
    「もう、はんぶん。」
    気がつけば
    うずくまるシーツの上は
    傷口から流れた血で
    真っ赤に染まっていた
    痛みに背中を丸めた
    その拍子に
    バサリ
    と、音がした
    「お疲れ様、羽が生えきったわ。」
    羽が
    生えきった
    その声を後に
    ぼくは眠りに落ちた
    ぼくの
    背中に
    羽が生えた
    天使のでも
    悪魔のでも
    鳥のでもない
    ただの人間の羽
    この羽で
    ぼくは
    どこかへ行けるのだろうか
    ぼくは
    どこかへ

    ぼくの魂を君に。

    • 2019.04.03 Wednesday
    • 23:20

    ぼくたちは、知らないだけでほんとうは魂をたくさん持っている。

    みんな、それは一人一つしか持ちえないと思っているけれど、ほんとうはそうじゃない。

    今までだって、ぼくたちは至る所に魂を少しずつ置いて生きて来たんだ。

    母親が君の産声を聞いたとき、その産声は魂になって君のお母さんの心に残っている。

    だから君のお母さんは毎月君に手紙を寄越す、その魂のおおもとに向けて。

    ぼくは今日この宿舎を出る。

    でもぼくの魂はきっとここに残る。

    この宿舎だけじゃない、あの校舎にも、裏庭にも、週末に遊んだ街角にも。

    そこかしこにぼくの魂は残っていくはずだ。

    だからぼくが目に見えない場所へ行って、もう音信も途絶えたって君はなにも悲しまないで欲しい。

    君の中にもぼくは、ぼくの魂を置いていくから。

    そして君は知らないだろうけれど、ぼくの中には君の魂がもうすっかりなじんでいる。

    まるで、ぼくの心に最初からあるみたいに。

    君とぼくは魂の交換をしたんだ。

    それは、どんなに遠く離れても引き離すことのできない距離として確立しているんだ。

    解らないかも知らない、でも、ぼくはそう思うからここを出ていくことができるんだよ。

    ぼくは、行く先々でまたたくさんの魂を置いていく。

    そうして最後の一個を置いた場所にたどり着いた君がいつの日か、白い花を置いてくれることを願ってる。

    ぼくたちは永遠に魂を分け合った、そう謂う存在なんだ。

    そう思って、ぼくはもう泣くのを止し、そして顔だっておぼろげにしか覚えちゃいない父親ってひとについていく。

    この先何があるのか、先生にも解らない。

    ただ、ぼくはまだ子供で、ぼくの居場所を決めるのがぼくじゃなくてその父親らしいって事だけは解っている。

    ぼくは君に魂をひとつあげる。

    君はぼくに魂をひとつ、くれたね。

    さあ、ぼく、もう、行かなくちゃ。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    彼は旅立つ前日の夜ふけ、窓辺に腰を掛けてそんなことを、まるで自分や世界に云い聞かすみたいに喋っていた。

    ぼくにはその時、その意味がいまいちピンとこんかったけれど、今ならばわかる。

    彼は確かにぼくの魂をひとつ持って行った。

    そして、ぼくの心にはあの日、月の明かりにうっすらと照らされた彼の横顔と一緒に彼の魂がある。

    彼と過ごしたすべての場所に、彼の魂を感じる。

    彼の居所ももうさっぱり判らないようになってしまったのに。

    ぼくは彼の魂の居所は、一日だって忘れたことが無い。

    それは、ぼくの心のなかの、とても大切な部分にあるから。

     

     

     

     

     

     

     

    。。。。。。。。。

    真ん中

    • 2016.05.30 Monday
    • 22:06

    この世界の中にはほんの一握り
    自分が世界の中心にいるって
    思える仕合わせな人間がいて
    それは横暴におもえるけれど
    実のところ正しいんだ
    ぼくらは自分の世界の真ん中にいる
    いつだって
    生まれたときから
    ずっと
    でもあまりにもたくさんの人がいて
    あまりにもたくさんの主張をするから
    自分の世界がどこにあるのかわからなくなってしまうんだ
    ずっとぼくらはそこにいるのにね
    世界は広いんじゃなくて
    多いんだろう
    この世の中にある人の分だけ
    世界はあって
    すべてのひとはその世界の中心なんだろう
    ぼくもきみも
    世界の真ん中にいる
    いつだって
    いまだって
    生まれたときから
    ずっと










     

    固有名詞

    • 2015.09.03 Thursday
    • 23:24
    ぼくにとって名前と謂うものは大した重要性を持たない。
    そして好きになれないものの一つだ。
    名前というのは、
    何かを特定するものだから。
    たとえそれがクヲーツだろうと
    水晶だろうと
    石だろうと
    SiO2だろうと、
    なんら関係はなく世界は関与せず美しい。
     

    無題

    • 2015.02.06 Friday
    • 17:51
    羽化した蝶
    越冬できない
    淋しく
    淋しく
    綺麗な

    どこへも行けない
    淋しい

    寒い冬は
    ひとつ
    吐息を残す



    向こう側へ行った彼の話

    • 2014.11.23 Sunday
    • 20:04

    ここに一葉の写真がある。
    (書き出しでは、まるであのさみしがり屋の一生の話の様だが、これはまた全く違う話である。)
    その写真にはにこやかに笑いながら猫を抱えた少女の姿が写されている。
    彼女は自分の事を、女でも男でもありたくないと云っていた。
    特に晩年に至っては自分の名前の最後の一文字を「男」に変え名乗っていたほどであった。
    しかし彼女には恋した男性もおり、男でありたいという訳であったのではないと思われた。
    ただ彼女の意志を尊重し、仮にこれをこの文章の中では「Hオ君」とし、またこの先一切を彼女から彼へ変えて表記させてもらおうと思う。
    彼、Hオ君は幼い頃は引っ込み思案ながらも、慣れれば明るく、優しい気質のひとであった。
    ただ、10代になった頃から少しずつ、精神的に苦痛を覚えるようになったと、ある日云っていた。
    特に理由のない苦痛はHオ君をひどく苦しめた。
    ぼくには、その苦痛の人匙すら代わってやることも出来ないが、彼女が隠す手首を思うだけで、察するに余りあった。
    彼とぼくが最後にあったのは去年の夏の事であった。
    彼の希望で都内のゲームセンターや喫茶店を巡った、Hオ君は普段は関西に住んでいたから、こうして会うのは本当にひさしぶりのことであり、ぼくも彼も非常に待ちわびた再会であった。
    待ち合わせは駅のすぐそばのコーヒー店、彼はぼくの顔を見た瞬間笑顔で手を振り立ち上がった。
    そしてぼくが注文したコーヒーを待つ間に、一つ、小さな錠剤を飲み下した。
    「緊張した時に飲む薬」だと云った。
    彼はその日一日でぼくが知りうる間に三粒はその「緊張した時に飲む薬」を飲んでいた。
    それを見るだにいたいたしく、ぼくはここにいていいのか悩ましく思った。
    ただ彼はその一日を本当に楽しかったと云い、二人で撮った写真に、ピンク色の洋墨で「ダイスキ」と記していたことがぼくにとっての支えである。
    彼は列車の時刻が迫るにつれ、さみしそうな声を出すようになった。
    ただ、そのさみしそうな声の中に、若干の安堵も含まれていたように、ぼくには思えた。
    Hオくんと別れるさい、ぼくは彼の小さな体をぎゅうと抱き、次会う日について話をした。
    長く、未練たらしく話をした。
    今度会う時には「駒鳥のような装いで会おう」と云った。
    彼は「うん」と答えた。
    「きっと次の冬までには会おう」と云った。
    彼は「きっと」と答えた。
    「今度は隣町の寺社参りもしよう」と云った。
    彼はまた「そうしよう」と答えた。
    そして、ありがとうと云った彼は列車へ乗り込むと、笑って手を振った。
    彼はそして、次に会う約束を反故にした。

    その笑顔が、この一葉の写真に写されている。
    ぼくはこの写真のHオくんが本当に駒鳥になってしまったことを、信じたくないような、信じていたいような気持でいる。
    彼は笑顔であった。
    何もかもがつらくとも笑顔であったのだ。
    ぼくは何もかもがつらいHオくんが、空を飛べた事に、嘆き、そしてほんの少しだけの安心を覚えた。
    酷い人間かもしれない。
    それでも彼の苦しみは途絶える事なかった彼の苦痛は、消え去ったのだ。
    ぼくはそれを心のどこかで安心してしまった。
    ただそれを誰かに云う事はない。
    最後の権利を行使した彼を責めることは、あまりにも酷な話だ。
    だが、ぼくにはひとつだけ、彼に云いたい事がある。
    きっと会おうと云った約束を、破ったのだ。
    それだけはこづいてやりたいと思っている。
    彼は今なにを思うのだろう。
    ぼくは、生きているという事が今一つわからない人間である。
    つまり、生を失った時、意識がどこへ行くのかが分からない。
    ぼくは五つくらいの頃からかれこれ二十年ちかく、そんな事を考えている。
    魂なんていう概念的なものの証明など、できはしない。
    ただ、彼はきっと今、苦痛のない所にいるのだと信じたい。
    彼は、笑顔の良い、まるで天使のようなこだったのだから。












    氷菓
     

    きみの睛

    • 2014.09.16 Tuesday
    • 19:36
    「君、斜視だね」
    彼がぼくの顔を初めて見て、最初に云った一言がこれであった。
    ぼくが斜視なのは本当だ。
    ただ、よほど注意して見ていない限り判らない程の、斜視である。
    ぼく自身つい数年前、母に「母さん、ぼく寄り目が出来ない」と云って初めてそれが斜視だからであると知ったくらいだ。
    「そうだよ。君、何故気づいたの。ぼくが斜視だ、てこと」
    「君の眼の色を見ていたから気付いたんだ」
    そんな事如何でも良いじゃない。と、彼は越して来たばかりの街を案内してほしいと云った。
    ぼくは特に変わった色をしている訳でもない自分の目について考えながら、良いよ、と請け負った。
    ぼくらは革の鞄に教科書や何かを詰め込むと教室を出た。
    彼の鞄の蓋のベルトが片方歪んでいて、かぱかぱと浮き沈みするのがなんだかおもしろく感じた。






     

    • 2013.12.07 Saturday
    • 16:22
    白い月がこっち見て
    にやにやしたんだ
    だからぼくは嫌気がさして
    端っこからすっかり
    食べてやった
    その時の食べこぼしが
    僕たちが立ってるこの
    地球だってわけさ

    彼はにやにや笑っている
    背中にまわした三日月も
    おんなじにやにや笑っている



    ねえ、

    • 2013.01.26 Saturday
    • 23:08


    「ねえ」
    まだ。
    「ねえ」
    まだ、まだ。
    「ねえったら」
    あとちょっと……?
    「ねえねえ、ねえっ」
    そろそろかしらん……、ちらりと視線を上げると、君と目が合う。
    怒ったかおしてる。
    ちょっとだけ、怒ったかお。
    嫌いじゃないから、時々見たくなる。
    「なに?」
    「なんで、返事しないのサ?聞こえてるくせ、やなやつ」
    ぼくは、ごめんねと云って、も一度。
    「なァに?」
    と、云う。
    そうすると、君は少し考えた顔して横目でぼくを見て、一つ息。
    「ねえ、あのね」
    と、綺麗に笑う。
    蓮の花が、瞬く間に開くみたい。
    ぼくは君の笑ったかお、好き。
    すごく好きだから、いつでも見ていたい。




    あろう。

    • 2011.02.08 Tuesday
    • 00:44



    広い心を持とうとしたら
    つかみどころが無くなって
    何も解らなくなりました
    ゆきさきさえ解らないぼくは
    少しでも沢山を得ようと
    多面体であろうとしました
    多面体であろうとしたぼくは
    いつの間にか球体のようになって
    ころころと転がって
    思うように進めなくなりました
    思うように進めないぼくのこころは
    いまもまだ
    鈍い音を立てながら
    何も解らずゆきさきも知らず
    こうして転がるばかりです。



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