そこに思想はなく生存に於けるタクティクスとも云われるような何万年もを掛けた無意識下の緻密な計算が在るぼく達は微々たる日々をひとりひとりの意思を持って計算や愛情や欲望や意識の停滞に費やすそうして何万年の時を今日もまた小さな一歩で脅かしている
ぼく聞いた。確かに聞いたよ。船乗りのお父さんから聞いたんだ。昔偉いひとが云ったんだって。もし蜂がこの世から絶滅したら、人類は4年で滅びてしまうんだって。だからぼく、蜜蜂は人間より、ずっと偉いんだと思うんだ。ねえ、きみは、どう思う?
愛のおおきさは泪でしか測れないだからあなたはそんな悲しい事を訊くのでしょうだからあなたはそんな悲しい目で訊くのでしょうぼくの泪はもう枯れ果ててしまったよ
色と光の世界目の回るような感覚錯覚か現実か幻想か実像かそれすらも曖昧で両の脚をつくこの地面すら肺をいっぱいに満たすこの透明な空気すらまだ信じ得ないぼくは降りそそぐ花びらとシャッターを切るような瞬き花弁と花弁の触れ合うさやさやという音
あの日君の見ていた花はぼくの見た花と同じ色で咲いていましたか君と何度となく聞いたあの曲はぼくの聞く音と同じ音色を奏でていましたか君と心地よいとつぶやいたあの春風はぼくの頬に触れたのと同じ囁きでしたか君の世界は君のものぼくの世界はぼくのものそんな当たり前のことがこの上なく尊くて美しくて哀しいのです今ぼくらの頭上に広がるこの空は隣に微笑む君にどんな光を映しているのだろう
唯気ままの散歩をした少し暑いほどの春の陽に薄桃色の椿が咲いていた背中越しに冬を思い出しながら薄ら汗ばんだ首筋に吹く風とその風に乗ってどこからか旅してきたあの曲が感傷的な春独特の呼吸を慰めるように撫ぜていった